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札幌家庭裁判所 昭和63年(家)116号 審判 1988年3月18日

申立人 養父となる者 守田信治

申立人 養母となる者 守田澄子

事件本人 養子となる者 山元美智子

事件本人 養子となる者の父母 不明

主文

事件本人山元美智子を申立人守田信治と申立人守田澄子の特別養子とする。

理由

1  申立人らは、主文と同旨の審判を求め、申立ての実情として、申立人ら夫婦には子供がないため、里親登録を経た上で、昭和61年12月から棄児である事件本人美智子を養子縁組を前提に里子として引き取り監護養育してきたが、この際同人を実子同様に慈しんで養育する決意をしたので、本件申立てに及んだと述べた。

2  そこで検討するに、申立人ら及び事件本人美智子の戸籍謄本、住民票、○○市児童相談所長の児童委託通知書、当裁判所の○○市児童相談所長に対する調査嘱託に対する回答書、当庁家庭裁判所調査官の調査報告書並びに申立人らに対する審問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人らは、昭和52年8月9日に婚姻した夫婦であり、夫信治(34歳)は○○○警察署警備課に巡査部長として勤務する警察官(昭和63年4月に他の警察署に転任予定)、妻澄子(35歳)は専業主婦であつて、いずれも心身共に健康で、誠実な人柄であり、夫婦仲は円満である。申立人らは現在警察宿舎に居住しており、資産としてはローンで購入した持ち家があつて、ローンを返済中であるが、これを他に賃貸して若干の家賃収入を得ているので、経済的にも安定した生活を送つている。

ただ、妻澄子が子供のできない身体であつたことから、申立人らは何とかして子供が欲しいと相談した結果、養子縁組を前提にして里子を育てようと決心し、昭和61年11月○○市児童相談所に里親登録をした。そして、同相談所から後記のような事情にある美智子を紹介され、同人が申立人らの希望に合致していた子供であつたので、同年12月12日相談所から生後6箇月になつていた同人を里子として委託された上、措置先の乳児院から引き取り、以来現在まで1年3箇月にわたつて監護養育を続けている。

なお、申立人らは、昭和63年から新たに特別養子縁組制度が設けられることを聞き及んでいたので、美智子を養子に迎える以上は、実親子と同様の強固な親子関係が形成される特別養子とするのが望ましいと考え、新制度の施行を待ち望んでいたものである。

(2)  美智子は、昭和61年6月3日○○市内の病院で、同日緊急入院した○○の山元キミエと自称する女性を母親として出生した。ところが、母親が2日後に病院に無断で出奔し、そのまま行方をくらましてしまつたために棄児となり、要保護児童として○○市児童相談所に通告され、同月24日○○市内の乳児院に入所の措置が執られていたものである。

美智子が病院で母親に遺棄されたことは、当時新聞に報道されたし、関係機関においても手を尽くして母親を探したが、偽名の疑いが濃く、その所在は依然として不明のままである。従つて、美智子の母親は勿論のこと、父親が誰であるかも全く知れていない。

(3)  美智子は、もともと丈夫な子供であったが、里子として申立人らに引き取られて以来、心身共に順調に発育し、1歳半時の検診結果では、体重12.73キロ、身長84.5センチ、乳歯12本であり、現在では片言を話せるようになつている。性格はおおらかで人に良く懐き、育てやすいとのことである。

美智子を引き取るまでは夫婦2人だけの物静かな生活を送つていた申立人らも、同人を我が子同様に慈しみ、積極的に養育する熱意を示していて、例えば身辺を清潔に保ち、絵本や玩具等は適当に選択して与えるなどして知的刺激にも気を遣う一方、いたずらに溺愛することのないよう配慮している。このようにして申立人らは同人にすつかり懐かれており、同人を一家の中心に据えて仲睦まじく暮らしているので、同人との関係は極めて良好であり、申立人らの実家との関係でも、同人の来訪が歓迎されるなど、円満な状態が保たれている。なお、申立人らは、同人を素直で優しく、おおらかな子供に育てたいと考えている。

(4)  美智子を申立人らに里子として委託した○○市児童相談所では、これまでの監護養育状況を観察した結果、申立人らに養親としての適格性があり、申立人らと美智子の適合性も十分認められるとして、他に適当な保護者がいない同人については、申立人らとの間に特別養子縁組を成立させるのが最適であると判断している。

3  上記の事実に基づいて、申立人らと美智子との間に特別養子縁組を成立させることの適否を考えると(その成立について考慮すべき試験養育期間としては、本件の場合は申立て前からの1年3箇月間にわたる監護状況が明らかとなつており、この期間をもつて十分であると認める。)、まず、美智子は棄児であつて父母が不明であるので、父母による監護が全く不可能であり、さればこそ里子として申立人らに監護養育が委託されたものである。

しかして、このような状態に置かれている美智子の利益のため、即ちその健全な育成と福祉の向上を図るためには、この際、同人の監護養育に必要な熱意と能力が十分あると認められる申立人らと美智子との間に実親子関係と同様の強固な親子関係を設定することによつて、同人に安定した家庭と身分を保障することが特に必要であると判断され、これを防げるような事情は何一つ見出せない。

なお、本件は美智子の父母が不明の事案であるから、特別養子縁組の成立について父母の同意を要しないことはいうまでもない。

4  よつて、本件申立ては理由があるものと認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 青木敏行)

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